大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)111号 判決

一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) 本件発明の要旨が審決認定のとおりであること、引用例には審決が指摘する記載があること、本件発明と引用例の発明の対比のうち審決理由の要旨2記載の点は当事者間に争いがない。

(二) そこで、引用例には本件発明の要件の一つである原料ラクトンおよび開始剤中の水分を無水または無水に近い状態にすることが開示されているかどうかについて、問題点を順次検討する。

1 引用例には触媒としてアルカリ金属を用いている例が記載されていることは当事者間に争いがない(成立に争いのない甲第三号証によれば、例5で触媒として用いられているのはナトリウムであることが認められる)ところ、ナトリウムのようなアルカリ金属は極めて水と反応し易い物質であるから、アルカリ金属を触媒として使用する方法においては、ラクトンおよび開始剤中に水が存在すると、アルカリ金属がこの水と反応して消費されることになるので、あらかじめ水を除去しておく必要があることはたやすく理解されるところである。

しかしながら、右の記載から、本件発明の要件の一つである触媒を使用しない方法による場合におけるラクトンおよび開始剤を無水または無水に近い状態にすることが開示されているとまでみることは困難である。

2 また、審決が指摘する引用例第九頁右欄中段には、「次に示す実施例では、反応開始剤。ラクトン類、触媒をその量及び種類をいろいろ変えて、混合し、この混合物に徐々に窒素気流を通して空気及び湿気を除去し、温度を一七〇℃に制御して加熱する。このようにして空気によるポリエステルの変色を防ぐのである。」との記載があることは当事者間に争いがない。

右記載は、引用例の発明(無触媒の例である例25を含む。)において混合物から空気と水分を除去することを示しているとみることができる。

しかし、右の記載からは、空気除去については、ポリエステルの変色を防ぐ目的であることが明確であるが、水分除去については目的が判然としない。しかし、少くとも空気除去についての右目的と別の点に水分除去の目的があるとは認められず、本件発明におけるように、ポリマーの酸価が上昇し、分子量分布が拡大化することを防ぐという水分除去の目的(このことは成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)により認められる)と同一目的で水分を除去する思想が示されているとはとうていいえない。

また、前記甲第二号証によれば、本件発明における反応系の無水状態の実用上の範囲は〇・〇四%以下、好ましくは〇・〇一%以下であると解されるところ、引用例では混合物に徐々に窒素気流を通して空気および湿気を除去することにより混合物の水分がどの程度まで除去されるのか明らかでなく、前記のように水分除去の目的が必ずしも明確でないことからしても、その除去の程度を知ることはできない。この点につき、被告は、被告の経験では、大量生産スケールの稼動においても、グリコールおよびカプロラクトンの水分含有量は窒素ガスの散布により〇・〇四%より低い〇・〇二%まで低下させることができると主張するけれども、この主張事実を認めるに足る証拠はない。さらに、引用例の例25では水分除去中に反応が生じないと認めるに足りる証拠もない。

したがつて、引用例の前記記載から、原料ラクトンおよび開始剤中の水分を無水または無水に近い状態にするということが示されているとはいえない。

3 さらに、審決が指摘する引用例第八頁左欄中段には、「他の極めて重要な利点は、縮合水が生成しないということであり、この結果ジイソシアネートとの反応に先立つて乾燥する必要がなくなる。」と記載されていることは当事者間に争いがない。

しかしながら、この記載を、前記甲第三号証により認められるところの、引用例の他の個所(二頁左欄11行~15行)における「本発明方法によつてラクトンを重合させる場合は触媒の助けにより、または触媒なしで、ラクトン環を開環させることのできる少くとも一個の反応性位置を有する一個またはそれ以上の化合物との反応により開始させる。この場合開環により水を生成しないで附加がおこる。」との記載とあわせ読めば、前記引用例第八頁左欄中段の記載は、引用例の発明が原料としてラクトンを使用した結果、反応によつて目的物質以外の副生成物としての水を生成することがなく、副生成物として水を生成する先行技術のように乾燥する必要がないので、有利であることを述べた趣旨のものであると解され、右記載が原料のラクトンおよび開始剤中の微量の水分を積極的に除去することを開示していると解することは困難である。

4 その他審決が指摘する引用例の記載を総合しても、触媒を使用しないで用いるラクトンおよび開始剤中の水分を、無水または無水に近い状態(〇・〇四%以下)とすることが、引用例に開示されているとはいえない。

(三) そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件発明と引用例を同一発明であるとした審決の判断は誤りというほかなく、審決は取り消しを免れない。

三 よつて、原告の請求を認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

末端水酸基を有するグリコール類を開始剤としてε―カプロラクトンを単独又はそのアルキル置換体と共重合せしめるに当り、

(イ) 触媒を用いないこと

(ロ) 原料のラクトン及び開始剤中の水分を無水又は無水に近い状態とすること

(ハ) 重合反応を加圧下で行なうこと

(ニ) ほとんど一〇〇%まで重合せしめること

以上四条件を具備し加熱重合せしめることを特徴とするポリウレタン弾性糸用非結晶成分として最適のラクトンポリエステルを製造する方法

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